不動産を相続する人がいない場合のやるべきこと【解説】
不動産を持っているのに相続人がいないと、「自分が亡くなったらこの家はどうなるの?」と不安になりますよね。
結論から言うと、遺言書で受け取る人を決めるか、生きているうちに売却しておくことで、ほとんどのトラブルを防げます。
相続人がいないと国庫に帰属するまでに数年かかり、その間に建物は傷み、固定資産税や管理費がかさむ恐れがあるからです。
ざっくりいうと、
- ・公正証書遺言で友人や福祉団体を受遺者に指名する
- ・信頼できる専門家を相続財産管理人に指定しておく
- ・築年数が古い家は早めに売却して現金化する
つまり、相続人がいない場合でも、早めに行動すれば大切な不動産とお金を守れます。
相続人がいないケースって?
「自分が亡くなったあとの不動産を引き継ぐ人がいない――」そんな状況は決して珍しくありません。
少子化と未婚率の上昇により、法定相続人ゼロというケースは年々増加しています。相続法の専門用語でこの状態を「相続人不存在」と呼びます。
相続人不存在が確定すると、最終的に遺産は国庫に帰属しますが、そこに至るまでには複雑な手続きと長い時間が必要です。
相続人不存在の定義
相続人不存在とは、民法第951条で規定される「相続の開始後、相続人がいないか、いるかどうかが不明な状態」を指す言葉です。
- 法定相続人が戸籍上で確認できない
- 相続開始時に確認できても全員が相続放棄した
- 相続欠格や廃除で資格を失った
- 半年間の捜索公告後も名乗り出る人がいない
実務では、戸籍調査や公告を経て初めて「不存在」と確定します。
たとえば、被相続人の戸籍を出生までさかのぼっても相続人が見つからない場合や、全員が借金のために放棄した場合などが典型例です。
相続人不存在が確定すると、家庭裁判所が相続財産管理人を選任し、財産を清算・国庫へ帰属させる流れになります。
独身で親族がいない場合
晩婚化・未婚化が進む現代では、配偶者も子どももおらず、兄弟姉妹や両親も先に亡くなっている「天涯孤独」のケースが増えています。
- 生涯独身で直系卑属(子・孫)がいない
- 両親や祖父母など直系尊属がすでに他界
- 兄弟姉妹もしくはその子(甥・姪)がいない
- 親戚づきあいが希薄で戸籍上確認できない
このような場合、戸籍をたどっても相続人が見つかりません。
例えるなら、家族というセーフティネットが一枚も張られていない状態。
自宅兼店舗の不動産を持ったまま亡くなると、近隣住民が「空き家問題」に巻き込まれる恐れがあります。
相続放棄が全員に選択された場合
相続人がいても、負債が多いと全員が相続放棄を選ぶことがあります。
- 巨額の住宅ローンが残っている
- 多額のカードローンや税金滞納が発覚
- 物件が老朽化し解体費のほうが高い
このような負の遺産を背負うくらいなら放棄したい――と考えるのは自然です。
ただし全員が放棄すると「最初からいなかった」のと同じ扱いになり、相続財産管理人の選任へ進みます。
たとえば、築50年の木造アパートで空室率が80%、修繕費用が家賃収入を上回るような物件が該当します。
欠格・廃除により相続権を失った場合
相続欠格は刑法上の重大な背信行為、廃除は被相続人が生前に裁判所へ請求して行うペナルティ措置です。
- 被相続人を故意に殺害・脅迫した(欠格)
- 遺言書を偽造・破棄した(欠格)
- 虐待や著しい非行を繰り返した(廃除)
こうした事情で本来の相続人が資格を失うと、残りの相続人がいなければ相続人不存在となります。
専門家しか使わない「推定相続人排除」という手続きがキーワードです。
相続人がいないと不動産はどうなる?
相続人がいない不動産は「行き先不明」にはなりません。
民法と家事事件手続法に基づき、遺言書・特別縁故者・国庫という順番で受け継がれます。手続きの途中では、弁護士や司法書士が相続財産管理人として不動産を維持管理し、売却や賃貸で得た収益から税金・管理費を支払います。
つまり、家が荒れ放題のまま宙に浮くわけではないのです。
遺言書で受遺者が指定されている場合
まず最優先されるのが遺言書です。
- 被相続人が公正証書遺言で友人を指定
- 介護ヘルパーに一定割合を遺贈
- お世話になった病院へ建物を寄付
遺言が有効なら管理人は内容どおりに遺産を分配します。
たとえば「自宅を親友Aへ、残金を動物保護団体へ」という指示があれば、それが最優先。
専門的には「受遺者(じゅいしゃ)」が権利を取得し、不動産の名義変更登記が行われます。
特別縁故者への分与が認められる場合
遺言がない場合は、被相続人と特別な結びつきのあった人が名乗り出るチャンスがあります。
- 内縁の配偶者
- 長年介護を続けた友人
- 事業を共にした社員や弟子
申立ての期限は「相続人不存在確定後3か月以内」。
家庭裁判所が事情を精査し、必要性と貢献度を認めれば不動産を取得できます。
専門用語では「特別縁故者分与」と呼ばれ、裁判所の審判によって決まります。
誰もいないときは国庫に帰属
遺言も縁故者もいない場合、残された不動産は最終的に国庫へ帰属します。
- 相続財産管理人が残余財産を換価処分
- 固定資産税などの債務を清算
- 法務局の帰属登記を経て国の所有へ
国庫帰属後は、売却・貸付などで公共財として活用されるか解体されるかが決まります。
「誰のものでもない家」は存在しない――というのが日本の法律の考え方です。
相続人不存在時の法的手続きフロー|家庭裁判所が主導する4ステップ
相続人がいない場合、手続きは家庭裁判所主導で進みます。
相続財産管理人の選任から財産清算・国庫帰属まで、一連の流れを押さえましょう。
途中で債権者や特別縁故者が現れてもスムーズに対応できるよう、手続きは厳格です。
以下では4つの主要ステップを紹介します。
1.相続財産管理人の選任
最初に行うのが相続財産管理人選任申立てです。
- 利害関係人(債権者など)が家庭裁判所へ申し立て
- 弁護士・司法書士が選ばれることが多い
- 管理人は財産目録を作成し管理業務を遂行
選任費用には予納金が必要で、東京地裁では約80万円が目安です。
例えると、家計を守る「財産の番人」を雇うイメージです。
2.債権者・受遺者への公告
管理人は就任後2か月以内に債権申出公告を行い、債権者や受遺者へ名乗り出るよう呼びかけます。
- 官報に掲載し周知を図る
- 期間内に申し出ないと債権は配当対象外
- 利害関係のある団体も確認可能
この公告は債権カットや清算漏れ防止の意味を持ちます。
3.相続人捜索公告と6か月の期間経過
さらに相続人捜索公告を実施し、最低6か月間待ちます。
- 全国紙や官報で相続人を周知
- 戸籍調査と並行して重複確認
- 期限までに現れなければ不存在確定
6か月は短く感じますが、不動産の管理費や固定資産税を考慮すると必要最低限の期間です。
4.相続人不存在の確定と財産清算
公告期間満了で相続人不存在確定となり、管理人は財産を清算します。
- 不動産を売却(任意売却・競売)
- 固定資産税・管理費を支払い
- 残余財産を国庫へ納付
ここまでに要する期間はおおむね1〜2年。
専門家は「清算型遺産管理」と呼びます。
不動産を放置するリスク|「空き家問題」だけでは済まない3大損失
相続人がいないからと放置すると、不動産は負動産へ変わります。
空き家のまま時間が経つほど解体費・修繕費・税金が膨らみ、周囲の安全や資産価値にも影響を及ぼします。
「まだ大丈夫」と後回しにした結果、家が傾き近隣トラブルを招くケースは後を絶ちません。
老朽化・倒壊リスク
空き家は人が住まないだけで急速に劣化します。
- 風通しゼロで湿気がこもりカビ・腐朽菌が繁殖
- シロアリ被害で基礎がボロボロ
- 地震や台風で倒壊しやすい
築古木造住宅の耐用年数は法定22年ですが、空き家は10年で限界に達することも。
例えるなら、エンジンをかけずに放置した車が一気に故障するイメージです。
不動産買取マスターは古いボロボロの家も買い取りますよ!
不法侵入・放火など犯罪リスク
管理されていない家は犯罪者にとって「格好の隠れ家」。
- ホームレスや外国人労働者が不法滞在
- 空き巣に荒らされ金属が盗難
- 放火で近隣まで延焼
警視庁統計では、空き家を狙った放火件数は通常住宅の約2倍です。
人目がない夜の校舎と同じで、火遊びや薬物使用の温床になりやすいのです。
固定資産税や管理費などコスト負担
所有者不明でも固定資産税は課税されます。
- 自治体は名寄帳で課税処分を継続
- 納税義務者が不明だと延滞金が増加
- 自治会費や草刈り費用を近隣が肩代わり
最終的に行政代執行で解体すると、費用は相続財産から徴収され、足りなければ公費負担に。
地域全体の負担増につながります。
生前にやっておくべき対策|「もしも」に備える三本柱
相続人がいないと気づいた今が対策の好機です。遺言書・資産整理・信託。この三本柱で未来のトラブルを防ぎましょう。
専門家に相談すれば、想像より手間も費用も少なく済みます。
公正証書遺言の作成
もっとも確実なのは公正証書遺言です。
- 公証人と証人2名が関与し形式不備がない
- 原本が公証役場に保管され紛失リスクゼロ
- 受遺者の名前・住所を正確に記載
たとえば、親友へ自宅を遺贈し猫の世話も託す――そんな細かな願いも法的に守れます。
作成費用は財産評価に応じて数万円〜。
不動産の売却・現金化
築古物件は早めに任意売却で現金化すると安心です。
- 老後資金として使える
- 売却益を有価証券や預金で分散管理
- 資産を現金化することで納税や葬儀費用に充当
例えるなら、使わない家具をリサイクルショップへ出す感覚。
早ければ早いほど高値で売れ、維持費も削減できます。
家族信託や公益法人への寄付検討
家族信託を設定すると、信頼できる受託者が財産を管理・処分できます。
- 親族や友人を受託者に指名
- 自分の死亡後は受益者を福祉法人へ変更
- 「利益を社会へ循環させる」仕組みを構築
また、公益法人や自治体に寄付する寄附採納という方法もあります。
ただし自治体は活用計画がなければ拒否するため、事前調整が必須です。
第三者に財産を託す選択肢
「身近に家族はいないけれど、大切にしている友人や団体へ財産を残したい」
その思いを叶える方法は一つではありません。
遺贈・死因贈与・家族信託、それぞれの特徴を押さえて最適な手段を選びましょう。
遺贈(受遺者指定)の手続き
遺贈は遺言書による単独行為で成立します。
- 遺言執行者が名義変更を代行
- 受遺者は相続税の課税対象
- 遺言無効リスクを避けるため公正証書推奨
たとえば、親友に自宅・現金500万円を遺贈する場合、受遺者は法定相続人でなくても財産を受け取れます。
そういえば、過去にあまり売れていない芸人で他人から巨額の資産を相続したというニュースがありましたね。
“祖母の友人”から15億円を相続した芸人が養母との2S初公開 海外の窃盗団・横領・裏切り…特別な人生を語る
死因贈与契約を利用する
死因贈与は贈与契約+停止条件(死亡)がセットになった仕組みです。
- 生前に贈与契約書を公正証書で作成
- 受贈者が贈与税ではなく相続税課税になる
- 契約解除には双方の合意が必要
「家は世話になった甥に、ただし老後も住み続けたい」という場合に有効です。
家族信託による資産承継
家族信託は信託契約を使い、受託者が財産を管理・運用・処分します。
- 受益者を自由に設定できる
- 成年後見制度より柔軟でコスト低
- 信託終了後の帰属権利者をNPOに指定可能
複数の不動産や賃貸物件を持つオーナーが、収益を老後資金に充当しつつ最終的に動物保護団体へ寄付する――そんな設計も可能です。
まとめ
相続人がいない不動産は、遺言書・特別縁故者・国庫の順で行き先が決まります。生前に遺言や売却で備えれば、空き家リスクと手続きの負担を大幅に減らせます。「備えは早いほど安心」を合言葉に、一歩踏み出しましょう。