共有名義の家に他の共有者が住んでいる場合は売却できる?<

2026年2月21日 任意売却

「兄がひとりで実家に住んでいて、売ろうにも売れない…」そんな悩みを抱えていませんか?

共有者が家に住んでいる場合に何ができるのかを、法律の基本から具体的な解決策まで、わかりやすく解説します。

共有名義の家に他の共有者が住んでいる ─ なぜ売却が難しくなるのか

共有名義(きょうゆうめいぎ)とは、ひとつの家や土地を複数の人が「いっしょに持っている」状態のことです。たとえば兄と弟で半分ずつ持っている、親子で3分の1ずつ持っている、といった場合がこれにあたります。

この共有名義の家に、共有者のうちの誰かひとりが住んでいると、他の人は「売りたくても売れない」という困った状況に陥りがちです。

共有者には「使う権利」がある(民法249条)

日本の法律(民法249条)では、共有者は全員、その家の「全体」を使う権利があると定められています。

これをカンタンに言うと、「たとえ自分の持分(もちぶん=持っている割合)が3分の1だったとしても、家全体に住んでいい」ということです。つまり、持分が少ないからといって「リビングだけ使っていい」とか「1階だけ住んでいい」とはなりません。

かんたん解説:「持分」ってなに?
持分とは、共有している不動産のうち「自分が持っている割合」のことです。たとえば兄弟2人で家を相続したら、それぞれの持分は「2分の1(=50%)」になるのが一般的です。

「出て行って」とは言えないの?

結論から言うと、原則として「出て行ってほしい」とは言えません。

これは裁判でも何度も争われてきたテーマです。最高裁判所は過去の判決で、「共有者の一人が共有物(家)を使用しているとしても、他の共有者はその人に対して明け渡し(退去)を求めることは原則としてできない」という判断を示しています。

なぜかというと、先ほど説明した「共有者は家の全体を使える」という法律のルールがあるからです。住んでいる人は、法律で認められた権利を行使しているだけなので、「不法に住んでいる」わけではないのです。

ただし、ごく限られた例外もあります。

たとえば、住んでいる共有者が他の共有者を暴力で追い出して住んでいるようなケースでは、明け渡し請求が認められる可能性があります。しかし、これはかなり特殊な場合に限られます。

住んでいない側が損をする典型パターン

住んでいない共有者は、家を使えていないのに、以下のような負担やデメリットを抱えることになりがちです。

① 固定資産税を払い続けている

共有者は持分の割合に応じて固定資産税を負担する義務があります。住んでいなくても、税金だけは毎年やってきます。

② 家の維持費がかかる

屋根の修理、外壁の塗り直しなど、大きな修繕が必要になったとき、費用を負担しなければならないこともあります。

③ 売却も活用もできず「塩漬け」になる

家全体を売るには共有者全員の同意が必要です。住んでいる人が「売りたくない」と言えば、そのまま何年も動かない状態が続きます。

これが「共有不動産の塩漬け問題」と呼ばれるものです。

「家賃に相当するお金」を請求できる?(不当利得)

「住めないのに税金だけ払っているのは不公平だ」と感じる方は多いでしょう。

実は、法律にはこうした不公平を調整するための仕組みがあります。

それが「不当利得(ふとうりとく)の返還請求」です。

不当利得って何?

不当利得をカンタンに言うと、「本来もらう権利がないのに、得をしている分は返しなさい」という法律のルールです(民法703条)。

共有名義の家で考えると、こういうことです。

たとえば兄と弟が50%ずつ持分を持っている家に、兄だけが住んでいるとします。兄は「自分の持分50%を超えた分」の家を無料で使えていることになります。この「超えた分」に対して、弟は「家賃に相当するお金を払ってください」と請求できるわけです。

この考え方は、最高裁判所の判例(平成12年など)でも認められています。

いくら請求できる? 計算のしかた

請求できる金額の計算は、基本的に次のような考え方で行います。

計算のイメージ

① その家を他人に貸した場合の家賃(近隣の相場)を調べる → たとえば 月10万円
② 住んでいない人の持分を掛ける → 10万円 × 50%(弟の持分) = 月5万円
③ つまり、弟は兄に対して「月5万円分の不当利得を返してほしい」と請求できる

ただし、実際の金額は物件の立地や状態、裁判所の判断によって変わりますので、あくまで目安として考えてください。

認められるケース・認められにくいケース

認められやすいケース

特に何の取り決めもなく、共有者の一人がずっと住み続けている場合は、不当利得の請求が認められやすい傾向にあります。

住んでいない側が「住んでいいよ」と明確に認めていなかったことがポイントです。

認められにくいケース

一方で、以下のような場合は請求が難しくなることがあります。

「タダで住んでいいよ」という約束(合意)が以前にあった場合。たとえば離婚のときに「子どもが成人するまで住んでいてOK」と合意していたケースなどです。このような場合は「無償で使うことを認めていた」とみなされ、不当利得の請求が通りにくくなります。

また、住んでいる人が家の修繕費や固定資産税を全額負担しているような場合も、「すでにバランスが取れている」と判断されることがあります。

占有されたままでも売却する4つの方法

「出て行ってもらえない」「話が進まない」としても、売却をあきらめる必要はありません。

方法①:話し合って、家全体を売る

もっとも理想的なのは、共有者全員で話し合い、家全体を第三者に売ることです。

全体売却なら市場価格で売れるため、もっとも高い金額を得られます。

住んでいる共有者にとっても、「売却代金から持分に応じたお金を受け取って、そのお金で別の家を借りる(または買う)」という選択肢を示すと、話がまとまりやすくなることがあります。

方法②:住んでいる共有者に、自分の持分を買い取ってもらう

家全体の売却に反対されたとしても、「じゃあ私の持分を買い取ってくれませんか?」と提案する方法があります。

住んでいる人にとっては、そのまま住み続けられるうえに家が完全に自分のものになるので、メリットがあります。

買い取り価格の決め方としては、不動産全体の評価額に自分の持分割合を掛けた金額をベースに交渉するのが一般的です。

ただし、実際には値引き交渉になることも多いので、事前に不動産の査定を取っておくのがおすすめです。

方法③:自分の持分だけを第三者に売る

自分の持分は、他の共有者の同意がなくても売却できます。これは法律で認められた権利です。

ただし、持分だけの売買はかなり特殊な取引になるため、一般の不動産市場で買い手がつくことはほぼありません。共有持分を専門に買い取っている業者に依頼するのが現実的な方法です。

注意点として、持分だけの売却価格は、不動産全体の価格×持分割合よりも大幅に安くなることが多いです(一般的に3割〜5割程度の値引きになると言われています)。

方法④:裁判(共有物分割請求訴訟)で分割を求める

話し合いがまったくまとまらない場合は、裁判所に「共有物分割請求(きょうゆうぶつぶんかつせいきゅう)」を起こすことができます。

共有物分割請求を起こされた場合、裁判所は主に3つの方法で解決を図ります。

現物分割
土地を物理的に分ける方法。ただし建物は切り分けられないので、家の場合は使われることが少ないです。
換価分割(かんかぶんかつ)
家を売却して、その代金を持分に応じて分ける方法です。裁判所が売却を命じるので、住んでいる共有者が反対していても売却が進みます。
価格賠償(かかくばいしょう)
住んでいる共有者が、他の共有者の持分に相当するお金を支払って、家全体を自分のものにする方法です。
占有しているケースでは、裁判所がこの方法を選ぶことも多いです。

裁判になると時間もお金もかかりますが、どうしても話し合いで解決できない場合の「最終手段」として覚えておきましょう。

よくあるケース別の対処法

共有者が住んでいるトラブルは、その背景によって対処法や注意点が異なります。

ここでは3つの代表的なケースを紹介します。

【相続】兄弟の一人が実家に住み続けているケース

もっとも多いのがこのケースです。たとえば親が亡くなって兄弟3人で家を相続したものの、長男だけがそのまま住み続けているようなパターンです。

この場合、まずは遺産分割の話し合い(遺産分割協議)のなかで「家をどうするか」を決めるのが基本です。長男に家を取得してもらい、その分のお金(代償金)を他の兄弟に払ってもらう方法が一般的です。

話し合いがまとまらない場合は、先ほど紹介した「不当利得の請求」や「共有物分割請求」が選択肢になります。

【離婚】元配偶者が家に住み続けているケース

離婚後に元夫(または元妻)が共有名義の家に住み続けているケースも、非常によくあるトラブルです。

特に「子どもの学校があるから引っ越せない」「住宅ローンの関係で名義変更できない」といった事情が絡むと、問題が複雑になります。

離婚時の取り決め(離婚協議書や調停調書)で「いつまで住むか」「住む代わりにローンは誰が払うか」を明確にしておくことが最大の予防策です。すでにトラブルになっている場合は、財産分与のやり直しや共有物分割請求を検討することになります。

【共同購入】共有者の一人が独占使用しているケース

友人や知人、ビジネスパートナーと共同でマンションや別荘を購入したものの、一方だけが独占的に使っているケースです。

このケースでは、購入時に「使い方のルール」を書面で取り決めていたかどうかがポイントになります。ルールがあればそれに従ってもらうよう求め、ルールがなければ不当利得の請求や持分売却を検討することになります。

いずれの場合も、まずは話し合いで解決を試み、難しければ法的手段に進むという順序で考えましょう。

まとめ

共有名義の家に他の共有者が住んでいると、「もう何もできない」と感じてしまいがちです。

しかし、この記事で紹介したように、法律はさまざまな解決策を用意しています。

  • 共有者には家全体を使う権利があるため、原則として「出て行って」とは言えない
  • 持分を超えて使用している分は、家賃相当額(不当利得)を請求できる場合がある
  • 全体売却、持分の買い取り交渉、持分だけの売却、裁判(共有物分割請求)─ 選択肢は4つある
  • 感情的な対立を避け、法律の範囲内で動くことが何よりも大切

大切なのは、「住んでいるから絶対に売れない」という思い込みを手放し、自分の状況に合った方法を知ることです。ひとりで悩まずに、まずは弁護士や共有持分の専門家に相談してみてください。道は必ず開けます。